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平成28年度の年金法改定は、制度の持続可能性を高め、将来の世代の給付水準の確保等を図るため、持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革と記されています。
このため、今回の改定は、社会経済情勢の変化に対応した保障機能の強化、より安全で効率的な年金積立金の管理及び運用のための年金積立金管理運用独立行政法人の組織等の見直し、などが行われて必要な措置を行うとの内容です。
主な制度改革
以下に示す項目が盛り込まれています。
- 短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進
- 国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除
- 年金額の改定ルールの見直し
- 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の組織等の見直し
- 日本年金機構の国庫納付規定の整備
短時間労働者への被用者保険の適用拡大
501人以上の企業等で働く短時間労働者への適用拡大は、平成28年10月から実施されています。
これを、500人以下の企業にも拡大しようとするものです。
被用者保険(組合・協会けんぽ健康保険、厚生年金、雇用保険など)は、働く人にとって年金や保障が拡充される有利な制度ですが、国民年金第3号被保険者(厚生年金加入者に扶養されている配偶者)にとっては、保険料の負担(雇用者と折半)が発生します(106万円の壁)。
公的年金には誰もが加入するので、この改革で加入者数が増えることはありませんが、国民年金から被用者保険に移ることで、全体の年金保険料収入は増加します。
501人以上の企業等への適用拡大
以下の拡大策が実施されています。
- 週20時間以上の勤務
- 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
- 勤務期間1年以上の見込み
- 学生は適用除外
500人以下の企業等への適用拡大
501人以上の企業等への適用拡大を、500人以下の企業等についても労使合意に基づき、適用拡大を可能にする内容です。
国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除
国民年金第1号被保険者の産前産後期間(出産予定日の前月から4ヶ月間)の保険料を免除し、免除期間は満額の基礎年金を保障する内容です。
この改定は、厚生年金の制度にあわした内容です。
対象者は、年間20万人程度と見込まれます。
改定前に免除を受けるとこの期間の年金額は、国庫負担分の2分の1に減額されていましたが、平成31年4月からは満額受給になります。
年金額の改定ルールの見直し
平成16年度の制度改革では、物価上昇時に、マクロ経済スライドで年金の上昇を抑えることになっていましたが、デフレで調整されませんでした。
このため、年金支給額が賃金・物価スライドの指標に比べ高くなりました。
そこで、マクロ経済スライドの厳密な実施と賃金・物価スライドによる年金支給額の」調整が新たに加わりました。
日本人の給与の上昇率は平成7・8年(1990年代)ごろが最高で、平成22年(2010年)ごろまで減少し、その後回復していますが元に戻ってはいません(国税庁資料)。
1996年~2015年の20年間の平均伸び率は、以下のようになっています(内閣府と厚生労働省資料)。
- 経済成長率(実質):0.8%
- 経済成長率(名目):0.2%
- 現金給与総額(実質):-0.7%
- 現金給与総額(名目):-0.6%
名目は実際の額(率)で、実質は物価の上昇と下落分を取り除いた額(率)です。
マクロ経済スライドの見直し
名目下限措置(年金受給額は前年度より下がらない)を維持し、前年度より下がる分は賃金・物価上昇の範囲内で上昇時に調整する仕組みで平成30年(2018年)4月から実施されます。
キャリーオーバー(繰越)と呼ばれます。
賃金・物価スライドの見直し
年金は世代間の仕送りであることから、現役世代の負担能力が低下しているときは、賃金変動に合わせて改定する内容で2021年4月から実施されます。
賃金は過去20年間、わずかとは言え減少していますが、年金受給額は名目額を維持する規定があるので減額されていません。
これからは、賃金が前年度を下回ると、年金額も前年度を下回ることになります。
経済状況(マクロ経済スライド)よりも賃金スライドが主になる改定です。
GPIFの組織等の見直し
今までの理事長独任制から、合議制による意思決定の導入などのガバナンス改革が平成29年10月から実施されます。
- 経営委員会による合議制(意思決定・監督と執行の分離)
- 監査委員会による監査・監視の強化
個人企業から、株式会社になったような改定です。
また、積立金の運用方法に以下が追加されます。
- リスク管理の方法の多様化:利用可能なデリバティブ取引の方法を拡大
- 短期資金の運用方法の追加:コール資金の貸付等を追加
コール資金は、金融機関相互間で貸借される、ごく短期の資金です。
日本年金機構の国庫納付規定の整備
GPIFの不要財産の国庫納付を独立行政法人の規定にあわせる改定で、年金制度と特に関係はありません。
GPIFの不要財産とは、使われていない宿舎や事務所などで、処分して得られた金額は国庫納付されます。